2018年12月15日(土)
名古屋市・長円寺会館にて、あいち文学フォーラム主催イベント「連城三紀彦からの『恋文』 その面影をたどれば・・・」を行いました。
第一部の講師は、浅木原忍氏。
『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』を著した作家です。
ミステリ作家でデビューした連城氏だが、いわゆる一般的なミステリとは違う、ミステリでありながら、ミステリであることを否定したような作品、斜に構えたようなところが、連城作品の通奏低音としてある。
連城作品の代表作は、花をテーマにした「花葬シリーズ」の大正ロマンものが有名だが、全作品の中では10分の1にも満たない。「戻り川心中」のように、ありもしないことを、さもあったかのようにもっともらしく書くのが非常に上手い。
現代の夫婦関係を軸にした、どんでん返しを描いたサスペンスが、初期の連城作品の中核をなしていた。どれだけ読者を驚かせるかに命を懸けていたような文章。ありとあらゆる手段を使って読者を騙す連城氏の手筋に翻弄されてほしい。
連城氏の作品の最大の魅力はなにか?とんでもない逆転の発想を、説得力をもって書く技術。恋愛小説を書くようになっても、その発想が作品の根幹にある。
「どんな出来事も疑ってかからないと、商売にならない。現実にはありえないような突飛な思いつきでも、その突飛さの中から推理小説としての真実をみつけなければならない。」常識を疑う。読み進むと天地がひっくりかえるような衝撃を受けることが、連城作品の魅力である。
寝ても覚めても連城三紀彦の作家が、その作品の魅力をたっぷりと語られました。
後半は、本多正一氏(文筆家/写真家)、水田公師氏(連城三紀彦氏の甥)、市川斐子氏(あいち文学フォーラム代表)の3人で、連城氏との思い出を語りました。
連城氏が、自らの作品を朗読した映像と過去の写真を紹介しました。
連城氏は、とても恥ずかしがりやで、このようにスタジオで堂々と朗読している映像はとても貴重だ。連城氏はモノを残さない人という話をまわりの人からよく聞いていたので、直筆の原稿を残さないことに腐心されていた。名古屋に帰ってからは、母親の介護で多忙だったので、余程のことがない限り連絡はとれなかった。
伯父との思い出はいろいろあるが、いろんなことに迷いがあるというか、美意識が非常に強い人だったので、現実と理想のギャップを埋めるのが大変だったのではないか。作品を書くことでその溝を埋めていたのでは。
連城三紀彦展の表紙のデザインを手掛けた方のインタビュー録音や、学生時代に連城氏との思いでを多くもつ女性のお話など、連城氏をしのぶエピソードが満載の時間でした。
講演終了後は、場所を移し、名古屋駅近くのシネマスコーレにて、映画「棚の隅」を上映しました。
2006年作品。連城三紀彦原作・大杉漣主演。
別れた男と女の心のすれ違いと、思い通りにいかない人生の悲しみを、淡々とした生活描写の中に描いた作品です。派手な演出はないものの、登場人物の悩みや葛藤が現れていて、静かな感動を呼び起こします。
連城三紀彦の作品の素晴らしさとその人柄に、思いを馳せた一日でした。
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