2018年11月19日月曜日

声に出してあじわう連城文学の魅力


20181118日(日)

名古屋市・イーブルなごやにて、あいち文学フォーラム主催のイベント
「声に出してあじわう連城文学の魅力」を行いました。



愛知県出身の作家・連城三紀彦氏の作品を、実際に声に出して、作品の魅力を味わいました。









<死の灯影とでもいうのか、何かこう暗い水面(みなも)に落ちた灯がさっと影を曳いて散りますような空しい灯でございまして──、はい、あの花街の色濃い紅と、女たちの着物の華やいで崩れた絵柄を包むその燈が何故か通夜の席に飾られる弔い提灯の儚い燈に似ていると、そんな気がするのでございます。>

「藤の香」 (『戻り川心中』より)






<いつものように和美は、葉二の腕の中で薄目を開けて、眠りに落ちかける間際の少女のようにあどけない顔をしている。和美は預金通帳のこともその金額のためにだけ自分があの女との関係を続けていたことも知っていたが、その顔はそんな邪心を奥深くに包みこみ、ただ無心に見える。>

「露ばかりの」 (『夢ごころ』より)






<その晩、康雄は夢を見た。 どこかの倉庫の棚の隅に手が古ぼけた機関車の玩具を探りあてた。塗料があちこち剥げ、赤錆をふいたネジは固くなっている。いくら必死に力をこめても動かなかった。そのうちに腹が立ち、傍のゴミ箱に、叩きつけるように棄てた。背を向けると同時に、だが不意にガタゴトと動き出す音が聞こえてきた。ふり返ると、確かに青いゴミ箱の底から、機関車が走り回っている音が湧きあがっている。叩きつけた衝撃で、直ったらしいのだが、薄闇の中で音だけを聞いていると、ゴミ箱の底で金属製の玩具が不思議な生命を得て生き物と変わって蠢きだしたような気がした。>

「棚の隅」 (『日曜日と九つの短編』『棚の隅』より)






<──ぼくのお父さんにそのラブレターがとどいたのは春休みにはいったつぎのつぎの日でした。お母さんが仕事でるすのときで、お父さんはめずらしくマジメな顔で読んでいましたが、ぼくがのぞきこむと大あわてでかくしてしまいました。そうして何日かたち、三月の最後の日の朝お父さんはそのピンクのラブレターをテーブルの上にのこして家出をしました。>

「恋文」 (『恋文』より)






 <今日の午後、タヅはちょっと嘘をついて和広に好きな色の口紅を選ばせ自分の手に渡させた。少尉さんから貰えなかった口紅を四十年たって別の男の手を借りてタヅはやっと自分の手に握ったのだろう。もちろん自分の唇に塗りなどしない。この写真のように黄ばみ、褪せてしまった戦中の思い出に新しい口紅を塗ってみたかっただけだ。>

「紅き唇」(『恋文』より)






<Tとはずいぶんいろいろな遊びをしたが、その中でも一番鮮烈に記憶に残っているのは、ガード下に新聞紙を敷き、その上に正座して頭を下げ続けていたことだろう。どこかから拾ってきた空っぽのパイナップル缶を前におき・・・つまりは、物乞いの真似をして遊んだのだ。いや、遊びと言っていいのか、当人たちはひどく真剣で、横浜まで行く旅費を必死に稼ごうとしていたのだ。>

「悲体」(『悲体』より)






<葬儀の間も騒々しすぎる足音で働き回っていた母は、夜になり皆が帰ると、喪服を脱ぎかけたままで、ぼんやりと仏壇の前に座りこんだ。ただ疲れただけとは思えなかった。父は結婚生活という山登りでも歩きだしてすぐにへたりこんでしまったのだろう。そんな父を四十年背負い続け、やっとおろすことができた安堵と淋しさのようなものが、喪服の後ろ姿の極端に落ちた肩に覗いて見えた。>

「母の背中」(『六花の印 連城三紀彦傑作集1』より)






深みと細やかさをたたえた華麗な文体に、人間洞察に優れた描写。連城三紀彦氏の文章を、じっくりと味わった時間でした。




2018年11月9日金曜日

講演会「連城三紀彦からの『恋文』 その面影をたどれば……」のお知らせ

主催 あいち文学フォーラム

没後5年、生誕70年
連城三紀彦からの『恋文』その面影をたどれば……

■日程:2018年12月15日(土)

■文学講演会 講演開始時間14時(受付13時30分より)~16時15分
会場:長円寺会館ホール (名古屋市中区栄2-4-23
会費:2,500円(「連城三紀彦展」図録(小樽文学館)代を含む)
定員:150名(先着順)

第一部「連城文学の魅力」(14時~15時)
 講演者:浅木原 忍氏
 (作家 著書『ミステリ読者のための連城三紀彦全作品ガイド』2017年3月刊行)

第二部 トークイベント「連城三紀彦の面影をたどる」(15時10分~16時10分)
 本多 正一氏 (文筆家/写真家「連城三紀彦展」図録(小樽文学館)編集)
 水田 公師氏 (連城三紀彦氏の甥)
 市川 斐子氏 司会兼(あいち文学フォーラム代表)


■映画観賞会 開始時間18時30分~20時(開場18時10分)
連城三紀彦原作『棚の隅』 大杉 漣主演
モントリオール映画祭2007年正式招待作品
会場:シネマスコーレ(名古屋市中村区椿町8-12
会費:1,000円  定員:60名(先着順)

※文学講演会及び映画鑑賞会ともに席に限りがありますのでお早めにお申し込み下さい。
お申し込み方法、お申し込み期限は下記をご参照ください。


■お申し込み・参加券のお求め
<E-mail> aichibungaku@yahoo.co.jp  または <Fax> 052-613-8511(市川) へ、
名前・住所・電話番号を記入、お申し込みの上、ゆうちょ銀行「払込取扱票」にて
下記口座にお振込みください。お振込み確認後、参加券をお渡し、又はお送りします。

*文学講演会のみの方は 2,500円。
 映画鑑賞会のみの方は 1,000円。
 文学講演会+映画鑑賞会の方は 3,500円。

*締め切り 1210日(月)
 振替口座 00890-0-136146 あいち文学フォーラム

■お問い合わせ Tel 090-5865-0089(市川) 090-7043-0159(上中)







■連城 三紀彦(れんじょう みきひこ)
1948年愛知県名古屋市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。映画好きで在学中にシナリオ勉強のためフランスへ留学。1978年、『変調二人羽織』で「幻影城」新人賞受賞。1981年、『戻り川心中』で日本推理作家協会賞受賞。1984年『宵待草夜情』で吉川英治文学新人賞受賞、同年『恋文』で直木賞受賞。1987年には得度し、浄土真宗大谷派の僧侶となる、法名は知順。1996年、『隠れ菊』で柴田錬三郎賞受賞。2013年、胃癌のため死去。2014年に日本ミステリー文学大賞特別賞受賞。他に『暗色コメディ』、『夜よ鼠たちのために』、『私という名の変奏曲』『黄昏のベルリン』、『人間動物園』、『造花の蜜』、『小さな異邦人』など著書多数。(『悲体』幻戯書房 プロフィールより)



■文学講演会  出演者プロフィール
 浅木原 忍氏(あさぎはら しのぶ)
 1985年青森県生まれ。北海道大学文学部卒。2007年より同人小説サークル「Rhythm Five」として活動。主に≪東方Project≫の二次創作でミステリー小説を発表している。2016年、同人誌として発行した『ミステリ読者のための連城三紀彦 全作品ガイド【増補改訂版】』で第16回本格ミステリ大賞評論・研究部門を受賞。

 本田 正一氏(ほんだ しょういち)
 1964年栃木県生まれ。著書『プラネタリウムにて』(葉文館出版)、共著『怪人 江戸川乱歩のコレクション』(新潮社)、写真集&写真展「彗星との日々」(光村印刷、銀座ニコンサロン)。『中井英夫全集』(東京創元社)、『シリーズ20世紀の記憶』(毎日新聞社)、『幻影城の時代 完全版』(講談社)、『薔薇の鉄策─村上芳正画集』(国書刊行会)などを編纂。2018年 市立小樽文学館「連城三紀彦展」を監修。

水田 公師氏(みずた こうじ)
 1967年生まれ。名古屋市在住。連城三紀彦氏の甥。晩年に至るまで連城さんの身近に暮らし、作家の素顔をよく知っている。

市川 斐子氏(いちかわ あやこ)
 1940年生まれ。名古屋市在住。2015年に仲間とともに「あいち文学フォーラム」を立ち上げ、以後代表。2006年に名古屋市が主催した連城三紀彦文学展及びトークイベントの企画に携わった時の連城さんとの思い出を持つ。






●あいち文学フォーラムは、当地の文学振興を目的に2015年に発足しました。
 参加・協力していただける方を募っています。