2016年12月11日日曜日

谷川俊太郎・北川透 対話 講演レポート

20161210日(土)

名古屋・東別院イーブルなごやにて、あいち文学フォーラム主催のイベント
詩人・谷川俊太郎氏と、文芸評論家・詩人の北川透氏との対話「〈ミライノコドモ〉へ詩の元気を!」を開催しました。





ゆったりと椅子に座って、それぞれの詩人としての生涯、在り方を問います。
地方各地の文学館についての話・・・静岡県・三島にある大岡信(まこと)ことば館や、山口県湯田温泉の中原中也記念館、愛知県に文学館に存在しないことなどの、
文学館を維持し続けることの難しさ。



戦前のラジオを収集しておられ、180ものコレクションを有し、フォルクスワーゲンのシンプルなデザインに魅かれた話。
大岡信との交流関係について、幼少より秀才で知られた大岡氏に、兄貴分として教えてもらった話。
谷川氏がいつまでも元気で詩を書き続けていることの元気の秘密について。
数年で膨大な詩集を出し続けること、話していることがそのまま詩になっていて、それでいて非常に深い現代詩となっていること。





「詩に就いて」<私、谷川>の朗読


十代の私は何も考えずに書いていた
 雲が好きだったから雲が好きだと書いた
 音楽に心を動かされたらそれを言葉に翻訳した
 詩であるかどうかは気にしなかった
 ある言葉のつながりが詩であるのかないのか
 そんなことは人が勝手に決めればいい
 六十年余り詩を書き続けてきて今の私はそう思う」(一部抜粋)









ポエム(詩作品)とポエジー(詩情)との違いの話。





<その男>の朗読



「これは俺が書いた言葉じゃない
誰かが書いた言葉でもない
人間が書いたんじゃない
これは「詩」が書いた言葉だ>
内心彼はそう思っている
謙遜と傲慢の区別もつかずに」(一部抜粋)



「私」とは何か?という問題について。自分の書いた詩が金になった話。
心と魂という言葉のちがい、心とは個人に属している、魂は個人を超えた生き物全体、存在全体に関わっていくもの。





二人の世界が繰り広げられ、対話は深まっていきます。
二人の対話が深まるにつれ、対話に耳を傾ける聴衆の熱心さが伝わってきます。





「トロムソコラージュ」<臨死船>の朗読

「知らぬ間にあの世行きの連絡船に乗っていた
けっこう混みあっている
年寄りが多いが若い者もいる
驚いたことにちらほら赤ん坊もいる
連れがいなくてひとりの者がほとんどだが
中にはおびえたように身を寄せ合った男女もいる」(一部抜粋)



<臨死船>と宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」について。



<ミライノコドモ>の朗読

「キョウハキノウノミライダヨ
アシタハキョウミルユメナンダ
ダレカガアオゾラヤクソクシテル
ミドリノノハラモヤクソクシテル
コレカラウマレルウタニアワセテ」(一部抜粋)


詩の朗読を谷川氏みずからが語る場面は、会場が熱気の渦のような雰囲気で、いまここでしか為し得ない、まさにライブそのものでした。

二人とも語っているのが楽しくてしょうがない。そんな対話を間近で聴けた嬉しさでいっぱいのイベントでした。

対話を聴いて、とても勉強になり、一期一会のまたとない、貴重な体験をさせて頂きました。



2016年11月5日土曜日

谷川俊太郎・北川透 <ミライノコドモ>へ詩の元気を! 対話




谷川俊太郎・北川透 <ミライノコドモ>へ詩の元気を! 対話

日時:20161210日(土)
   13時受付開始 / 1330分開演~16時終演

会場:イーブルなごや ホール(名古屋市男女平等参画推進センター・女性会館)
   名古屋市中区大井町725号 TEL 052-331-5288
入場料:2,000円 (全自由席)
  ※当日も受け付けますが席数に限りがあるため、事前に入場券をお求めください。

■お申し込み・入場券のお求め
<E-mail>aichibungaku@yahoo.co.jp または <Fax>052-613-8551(市川)へ
名前・住所・電話番号を記入、お申し込みの上、
ゆうちょ銀行「払込取扱票」にて下記口座にお振込みください。
受領証をもって入場券とさせていただきます。
 ※締め切り 1125日(金)
  振替口座 00890-0-136146 あいち文学フォーラム

■お問い合わせ
 Tel 090-5865-0089(市川) 090-7043-0159(上中)
 〒453-0013 名古屋市中村区亀島1-11-11

 アートハウスあいち内 あいち文学フォーラム事務局


谷川俊太郎(たにかわ しゅんたろう)
詩人。1931年東京都生まれ。
1952年第1詩集「二十億光年の孤独」を刊行。1962年「月火水木金土日のうた」で第4回日本レコード大賞作詞賞、以後「マザーグースのうた」で日本翻訳文化賞、「日々の地図」で読売文学賞、「トロムソコラージュ」で第1回鮎川信夫賞など受賞、著書多数。詩作のほか、絵本、エッセイ、翻訳、脚本、作詞、近年は詩を釣るiphoneアプリ「谷川」、郵便で詩を送る「ポエメール」など、詩の可能性を広げる新たな試みにも挑戦している。近著に「ミライノコドモ」他。哲学者の父・徹三は常滑市出身で愛知五中(現・瑞陵高校)卒。

北川透(きたがわ とおる)
詩人・文芸批評家。1935年碧南市生まれ。愛知学芸(現・教育)大学卒業後、豊橋で1962年から1990年まで、詩と批評誌「あんかるわ」を編集発行し詩作、評論の世界をリード。下関へ移住し、梅光学院大学教授などもつとめ、「北川透・詩論の現在」全3巻で第3回小野十三郎、詩集「溶ける、目覚まし時計」で高見順賞、「中原中也論集成」で藤村歴程賞、本年6月、中日文化賞。現在「北川透現代詩論集成」全8巻刊行中。評論「谷川俊太郎の世界」など著書多数。

2016年9月23日金曜日

三ヶ根山・わらべの小径をめぐる旅

愛知県の蒲郡市と幸田町の間にある三ヶ根山。



かつては三河湾を見晴らす週末の保養地として栄えていましたが、現在は展望台もロープウェイも取り壊され、廃墟が点在する場所となっています。

ここには比島(ひとう)観音という、太平洋戦争でのフィリピン戦線で亡くなった518000人もの戦没者を祀った無数の鎮魂碑があります。


ぼけ封じ観音で知られる三ヶ根観音のちかくにある「わらべの小径」。
ここを歩くと、思わず笑みを浮かべるような、心なごむかわいらしい石の彫像や碑が数多く並んでいます。

天気が良ければ、渥美半島が見晴らすことができる風光明媚な丘。

ここに谷川俊太郎の碑が建てられています。
碑文の詩は「こころの色」。




こころの色(抜粋)

世界はみんなのこころで決まる
       世界はみんなのこころで変わる。
あかんぼうのこころは白紙
      大きくなると色にそまる
私のこころはどんな色?
      きれいな色にこころを染めたい
きれいな色ならきっと幸せ
      すきとおっていればもっと幸せ

      「法句経」より         谷川俊太郎



この碑の建立に携わった人物は、森永アサヱさん。



碧南市在住の女性で、22年前まで養護老人ホームで勤務していました。

現在は「ひがんばなの会」という永代供養墓建立の団体の代表をされています。


8年前、知人の石材店で石を買い取り、ほどなく森永さんが通う詩の朗読サークルで谷川氏の従兄弟の方と知り合いになりました。

ご縁とあって、その方に詩碑のことを相談したところ、谷川氏へ連絡して下さり、直接お会いする機会に恵まれ、本人より快諾を得ました。

除幕式には、仕事で名古屋を訪れた谷川氏が、わずかに空いた30分の時間内に間に合わせ来られたそうです。




谷川氏との除幕式までのお話とともに、「ひがんばなの会」の活動のエピソードも多く聴かせていただきました。

 


老人ホームに勤務しているとき。三ヶ根観音や比島観音を訪れる人たちに、なにかできることはないかと思った森永さんは、空いた場所でお茶を振る舞うボランティアを始めたところ、大変に好評をいただき、現在まで至っているそうです。

太平洋戦争で殉死された戦没者の方々は、自分を生み育ててくれた母を想い、また妻子を想いながら殉死されたと思われることから、多くの方々の願いとともに建立された「女の墓碑 永代供養墓」。

亡くなった後の墓について、人知れず抱く悩みや不安を解消するべく、有志とともに立ち上げた「ひがんばなの会」には、人々の「悲願」と「彼岸」の意味が込められているとのこと。

 

谷川氏の飾らない人柄と、森永さんの快活な人柄を物語るエピソードではありませんか。




森永さんと、「ひがんばなの会」設立前からの有志・中村スズ子さんと。

 

あいち文学フォーラムは、愛知県に文学館や碑を作るとともに、愛知文学の振興を目的に設立した民間団体です。

ひとりひとりが素人で、できることから手探りで活動しています。

私たちの活動に大きな励みと学びをもたらしてくれた、とても意義深い一日でした。


2016年9月19日月曜日

谷川俊太郎と谷川徹三、そして宮澤賢治

2016919日(月)

名古屋・東別院イーブルなごやにて、
あいち文学フォーラム主催イベント「谷川俊太郎と谷川徹三そして宮澤賢治」を行いました。
講師はあいち文学フォーラム代表・市川斐子氏。


有名な「雨ニモマケズ」が書かれた日、賢治の死から
「雨ニモマケズ」手帳の発見までの解説をしました。

次に、谷川徹三(谷川俊太郎の父親)と「雨ニモマケズ」との関係を解説しました。

谷川徹三は愛知県常滑生まれの哲学者で、文芸・美術・宗教・思想など広範な評論活動を行う一方、美術・骨董・茶道にも幅広い見識を持ち合わせた人です。
宮澤賢治を非常に尊敬しており、その評論や、雨ニモマケズの批判に対して論争もしました。

「『雨ニモマケズ』は『詩を書くというような気持でなく、もっとじかに、
自分の心の奥の最も深い願いを、自分自身に言い聞かせるというような気持で書かれた』」
「単純素朴な言葉の中に複雑な思念を蔵しているように、その謙虚な願いと祈りの中に、この詩は強い使命感をひめている」(谷川徹三『宮澤賢治の世界』より)

そして、『二十億光年の孤独』を編み出した息子・俊太郎を絶賛していました。
作家の阿川弘之は「谷川徹三先生の最高傑作 教育者谷川徹三の最大の成果 令息俊太郎の詩であり 詩人谷川俊太郎その人ではありませんでしょうか」と、谷川徹三への弔辞で残しています。

市川さんは、2年前に岩手県を訪れ、宮澤賢治ゆかりの地を訪ねました。
谷川徹三の揮毫した賢治碑や、その碑の所以の解説をしました。
そして、谷川俊太郎もこの地を訪れたそうです。
その記念写真は、「石と賢治のミュージアム」に飾られています。

 

 谷川俊太郎著『ぼくはこうやって詩を書いてきた』によれば、
「父(徹三氏)がこの碑の文字を書斎で書かれて置いてあったのを見て感動で涙が出た」
とのことです。

「賢治の<まずもろともにかがやく宇宙の微塵となり無方のそらにちらばらう>と
いう文章は、自分のどこかにすごく触れることばなんです」
(『ぼくはこうやって詩を書いてきた』)より

講座の合間には、文学フォーラムメンバーによる朗読も行いました。
『アンパン』、『二十億光年の孤独』、さだまさし著『いつも君の味方』より、谷川徹三との出会い。『「私」に会いに』、『こころの色』。

後半は、谷川徹三のふるさと・常滑と、その略歴の解説をしました。

京都大学で西田幾太郎に師事、学生時代に、多喜子夫人に出会い、結婚。
法政大学で教授を務め、交友関係は、有島武郎、志賀直哉、和辻哲郎、柳宗悦、岸田劉生など。
息子の俊太郎は、父と母との恋文を編集し『母の恋文』として出版し、
父・徹三の審美眼を、『愛ある眼 父・谷川徹三が遺した美のかたち』で著しています。

講座の最後は、愛知県にある谷川俊太郎の詩碑についてです。


あまり知られていませんが、谷川俊太郎の詩碑が愛知県にあります。
その場所は、蒲郡市・三ヶ根山の頂上・三ヶ根観音のちかくの「わらべの小径」。
三河湾を見晴らせる眺めの良い場所に「こころの色」の詩碑が建立されています。

さまざまな巡りあわせから、詩碑設立の運びとなり、
谷川氏本人も、平成19年に建立された除幕式に立ち会ったそうです。


父・谷川徹三、息子・谷川俊太郎。そして、宮澤賢治。
三者の情熱ある生涯が織りなした物語を、参加された方々は熱心に聴き入っていました。





2016年7月26日火曜日

文学散歩・津具探訪 ~佐々木味津三ときらきら文庫~

2016724日(日)
二葉館の読書会のイベントで、愛知県の奥三河・津具村(北設楽郡 設楽町 津具)への文学散歩ツアーに参加しました。
津具村出身の小説家・佐々木味津三(ささき みつぞう)の探訪と、きらきら文庫を訪ねる日帰りの旅です。
津具在住の作家・金田喜兵衛(かなだ きひょうえ)氏の案内のもと、
まずは「津具の七賢人」について紹介されました。


長谷川悟石(書家)、熊谷弘(裁判官)、村松乙彦(日本画家)、
佐々木味津三(小説家)、夏目一平(郷土史家)、中村明人(軍人)
と、津具の文化に貢献した人物を紹介されました。

次に、文化資料センターへ赴き、津具や佐々木味津三について
学芸員とともに、さらに詳しい説明を受けました。














佐々木味津三や、「旗本退屈男」で主演を演じた市川右太衛門ゆかりの資料が展示されていました。
金田氏は『佐々木味津三評伝 それでも書く』を著しており、
佐々木味津三の代表作である大衆文芸「右門捕物帳」「旗本退屈男」の解説や、
若き日のエピソードや妻・克子への思いなどを解説されました。
その後、すぐ近くにある佐々木味津三の生家(現在は無人)を訪ねました。




おいしい昼食をはさみ、



向かった先は、「きらきら文庫」です。



家主の渡邊満洲子さんが、こどもたちとの交流と母親の子育てのために開放した小さな図書室です。
津具語り会の方々による絵本の朗読がありました。







「キャベツくん」(長新太)、「きょうはマラカスのひ」(樋勝朋巳)、「はらぺこあおむし」の歌と、
とてもあたたかな雰囲気で、聞いていると心がおだやかに感じられます。



いっしょに振る舞ってくださったトマトやとうもろこしがとても美味しかったです。





地元のこどもたちとの交流を通じて、本に親しむことの素晴らしさ、
読み聞かせ活動をすることで、自分たちもいきいきと暮らすことの楽しさは、
語りの会の方々のあたたかい笑顔を通じて、とても心地よく伝わりました。









本を通じて、貴重な出会いと、心ゆたかな時間が生まれる。
「本との出会い、豊かな時間」とは、名古屋の正文館書店のキャッチフレーズですが、
まさにその言葉がよく似合う、そんな一日でした。